私鉄高架下の、定員60名の園庭つき認可保育園である。ここは以前店舗付住宅が立ち並ぶ生活感溢れる高架下であった。高架の耐震補強を機に立ち退きが行われ、隣接地の薬局や飲食店とともに本園の建設が企画された。敷地は東西約80m南北約9mと細長く、幅員11mの暗渠上の道路に沿っている。周囲は高層マンションや駐車場、戸建住宅等が乱在する。保育園の設計に際し、かつてここにあった、人々の生活の賑わいが街の顔となるような風景を、新しい形でつくりたいと考えた。高架下という場所と保育園というプログラムの公共性を追究することになった。
【街と連続する80mの軒下空間】
高架下に建築可能な範囲は、既存の高架工作物との離隔寸法等により限られている。この範囲に沿い、緩やかな勾配をもつ約70mの軒をひと続きに連ねた。この長い軒下は、道路に沿い、半屋外のエントランス・通路・園庭、屋内のホール・保育室などに使われる。保育園内の活動は自然に道路側の街へ表出する。
【街にひらかれた緑化スクリーン】
保育園には防犯上一定以上の高さのフェンスが必要である。そこで軒下から床面までアルミの菱型金網を張り、道路に沿った緑化スクリーンとした。そして、園内のプライバシーは、植栽・金網・サッシ・カーテンの組合せにより、適度に調節できるようにした。スクリーンを含む敷地全体に、道路沿いの長さを活かして、季節ごとに開花・結実・紅葉する位置が異なるように植物を植えた。園児にとっては四季の移ろいを学ぶ場であり、街の人々にとっては80mの楽しい散歩道である。開園後、ここに街の方々が自ら種を植え手入れをするというハプニングもおきている。
【明るく賑やかな高架下空間】
屋根の下の保育室はCH2075~2350の低めの天井高さで、高架下の土木空間的なスケールと対照的な身体的スケールである。落ち着いて過ごせる保育室と活動的に過ごせる園庭を両立させている。保育室は、低い天井の空間で道路に面してフルハイトのサッシを入れることで、縁側のような明るい空間とした。高架下と軒下の両方のスケールがあらわれる園庭は、雨と直射日光が遮られる全天候対応であり、軒によるブリーズソレイユ効果で明るく感じられる。暗く閉鎖的な印象をもたれがちな高架下保育園だが、街に接した明るく賑やかな保育空間とすることができた。
所在地:東京都荒川区
用途:保育所
敷地面積:約740㎡
建築面積:約460㎡
延床面積:約400㎡
キーワード:保育所・高架下・公共性・再開発・軒・緑化・鉄骨造
竣工年 2018
施工者 塚本建設